濱口梧陵文庫
「濱口梧陵文庫」とは
濱口梧陵(はまぐち ごりょう:1820~1885)は、ヤマサ醤油7代目当主にあたる人物で、稲むらに火をつけて津波から村人を救った物語『稲むらの火』の主人公「五兵衛」のモデルとしてひろく知られている。
実際に、梧陵は安政元年(1854)に発生した安政南海地震の際、藁(わら)に火をつけて村人を誘導して、津波から救い、被災後には将来の津波に備えて広村堤防を築いて村の復興を成し遂げたことで、今日でも高く評価される。
また梧陵は、社会事業家にとどまらず、耐久社(現在の県立耐久高等学校)を創設した教育家、初代県会議長などを務めた政治家として、幕末明治初期に幅広い分野で活躍した人物である。
【肖像】出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」
(https://www.ndl.go.jp/portrait/)
「濱口梧陵文庫」は、平成24年に濱口梧陵の子孫から和歌山県立図書館に寄贈された蔵書群で、約550点、5,705冊の資料で構成されている。
和歌山県立図書館では、令和元年から4年にかけて、「濱口梧陵文庫」の性格を明らかにするために、蔵書全体の調査を実施した。調査の結果、550点近い蔵書のうち465点には「梧陵」「南紀廣浦濱口儀兵衛所蔵記」「黄篾園図書記(おうべつえんとしょき)」などの梧陵の蔵書印が押印されていることが判明し、蔵書の大部分は少なくとも梧陵自身が所有したものと想定できるとの判断に至った。
また、蔵書の中でも特に地理・歴史関連や中国の宮廷印刷所が印刷した貴重書「武英殿(ぶえいでん)本」などの輸入漢籍や徂徠学(そらいがく)関係の書籍、海防・翻訳兵書関連の書籍に関しては、同時期の大大名の蔵書と比較しても、特出すべき内容のコレクションが形成されていることが明らかになり、地理・歴史関係の書籍には、梧陵の記名のある書き込みも多数確認することができた。
濱口梧陵は、明治期の和歌山を代表する政治家でもあり、東洋的な教養・精神を土台としつつも、更に西洋的な学芸・技術を導入することを重視した人物である。「濱口梧陵文庫」の蔵書構成や書き込みにもそうした傾向は現れており、梧陵が活躍できた背景には、多様な書籍から知識人としての教養と海外情報を収得し、時代に対応しようとする姿勢があったことがうかがえる。「濱口梧陵文庫」は、それを現代に伝える重要な資料群といえるだろう。
関連説明資料
※広川町の稲むらの火の館が作成した目録を基に蔵書印情報等を加筆した目録です。
濱口梧陵文庫の詳しい解説はこちらをご覧ください。
※令和4年11月の和歌山県立博物館講座において文庫の内容を紹介した解説資料です。