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第25回 「手づくり紙芝居コンクール優秀賞」<一般の部 優秀賞>

ももこのぼうけん さく・やまもと こうせい

H30_senior1.JPG(1/8場面)自己紹介場面


 私は桃の『あらかわももこ』。
空気が澄んで 空や緑が美しい農園で暮らしているの。今は大きく甘くなるように
過ごして居るけれど、もうすぐここを出て果物屋さんやスーパーへと向かうのよ。
私達を楽しみに待っている人々に会う旅に行くの。
 ブーンブブーン。農園の草村で暮らすハナムグリのズングリーとムックリーが
飛んできましたよ。
「やあ桃ちゃん。」
「おはよう。あっちでもみんな大きくなっていた?」
「濃いピンク色になったズングリ。」
「旅が近付いているわ。ありがとう。」
 二匹は飛んで行きました。

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(2/8場面)嵐の前場面

 その日農園には、枝と棒をロープでくくり付ける人達が居ました。季節はずれの
台風が近くを通るそうで、強い風から桃を守るための作業なのだそうです。

ブーンブブーン。
「もうすぐ嵐が来るズングリ。」
「枝を留めてたムックリ。」
「桃ちゃんの所も、もうすぐ来るズングリ。」
「強い風が吹くのね、ズングリーとムックリーも気をつけて。」
「ありがとムックリ。」
二匹は足早に飛んで行きました。少しして桃子の木も、枝が固定されました。
枝先に実っている桃子は葉の間から空を眺めています。
「無事に嵐をやり過ごせますように。」

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(3/8場面)台風場面


 灰色の空を、暗い雲が次々通り過ぎます。やがて雨が降り風が枝を長く揺すります。
雨風はどんどん強くなり、枝先が強くあおられます。桃子の目の前の枝も葉も
バッサバッサと揺れ、頬を雨がぬらします。
「大丈夫かな。」
ザザーッピューバッサバッサ。
風と共に枝もうねり、桃子は上に下に振り回され酔っています。そして次の風で
枝からポーイと放り出されてしまいました。
「ああー。」

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(4/8場面)一人ぼっち場面

 コロコロコロコロ。坂道から転がる桃子。やわらかい土は雨水を含んでべちょべちょです。
小石にあたっては、方向を変えながら転がります。とうとう目が回り、気を失ってしまい
ました。
 目覚めた時、嵐は去っていました。
「ここはどこかしら。農園じゃないのかしら。ズングリー、ムックリー、どこー?
桃子はここよー。」
 叫んでも誰も返事をしてくれません。ふと見るとドロまみれでキズだらけの自分。
「もう食べてもらえないわ・・・。ひっくひっく、えーん、ええーん。」
 泣きだしてしまいました。

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(5/8場面)ぶん太場面


「うるさいなぁ。誰さ、おいらを起こすのは。」
 土の中から声がしました。
 ズボズボッ。出て来たのはかぶと虫。
「ふぁーあ、早起きって眠たいや。おいらはぶん太。君は?」
「わ、私は桃子。農園から風に飛ばされて来たの。もう戻れなくて悲しいの。」
「そいつは気の毒だな。おいらが力を貸すぜ。」
「え、でも私重くないかなぁ。」
 するとぶん太はツノで桃子を動かしました。
「うんせ、うんせ。」
 ゴロリ、ゴロリ。
「おいらは力持ちなのさ。」
「すごい、ぶん太君。」
「へへん。じゃあここを上ってみよう。上がりきった先に見覚えがあるかもな。」
「ありがとう。お願いします。」

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(6/8場面)兄弟場面


 暗い林の中をぶん太が転がして行きます。
「あ、かぶと虫!網、網早く。」
「うん、うん。」
「えいっ。」
 バサッ。ぶん太は男の子二人に獲まってしまいました。
「兄ちゃんすごいすごい。」
「カゴに入れて持って帰ろう。」
 ブブブ、羽ばたいてももう外へは出られません。そして桃子は弟のリュックに
入れられました。
 兄弟の家に着くと
「おかえり。やぁ、もうカブト虫おったんや。一緒に桃もお土産なん?」
「うん。カブトが転がしてたでぇ。」
「ええー、ボール遊びしてたんかなぁ。キズあるけど、大きくておいしそうやで。
食べよか。」
「食べる食べる。」

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(7/8場面)食べる場面


 お母さんは桃子のキズをとりのぞき、サクサクッと一口大に切ると、お皿に盛りました。
「はい食べてな。」
「いただきます。や、おいしいなあ。」
「甘いなぁ。」
 二人につられて桃子も笑っています。果物屋さんやスーパーへ行ってないけれど、
こんなに喜んでもらえるのが嬉しいのでした。
「良かった。ありがとう、ぶん太君、みんな。」
「ごちそうさまでした。」
 にこにこ笑顔の兄弟。ありがとう、桃子。

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(8/8場面)最後場面


 次の日兄弟は、ぶん太の観察を済ませて元の林に帰してやりました。カゴから出た
ぶん太は周りを見るとすぐに力強く飛んで行きました。
 そして、桃子の種は植木鉢にあります。いつの日か桃子の子供達がみんなを再び笑顔に
してくれるかもしれませんね。

         おしまい